自由貿易は自国の産業を無防備にする







富国と強兵 地政経済学序説でTPPについて書かれていたので、書いてみようと思います。

TPPの経済効果の試算

自由貿易の経済効果を計算する際には、一般的に「応用一般均衡モデル」(CGEモデル)というものが用いられます。
CGEモデルは、TPPの経済効果を計算する多くの研究で、用いられていて、10年後にTPP参加国のGDPは穏やかな上昇をもたらすという試算結果を導き出していました。
しかし、これは、貿易自由化を実施しても、新古典派経済学の完全雇用が成立することが前提となっています。
つまり、失業しても次の瞬間、別の職業に転職できることが前提となっています。
しかし現実的には、高度な技能を持っている労働者になればなるほど、転職が難しいという現実を無視した前提となっています。
仮に失業者が新たな仕事に就けたとしても、賃金は前より下がることとなります。
つまり失業による損失も無視できないのです。
CGEモデルでは、それが無視されています。
タフツ大学のある研究者がTPPの経済効果を現実的な雇用の悪影響を考慮して再度計算したところ、アメリカでGDPの0.54%のマイナス、日本で0.12%のマイナスとなる試算となりました。
また、失業については、TPP参加国全体で77万1000人が失業し、アメリカでは44万8000人が失業すると試算が出ました。

新古典派経済学(主流派経済学)とは

自由貿易により、経済成長するという新古典派経済学の理論には、前提があり、常に完全雇用が成立し、セイの法則というものが成立することになっています。
完全雇用は先ほども説明したように、失業しても常に仕事はあふれているので、えり好みしなければ、失業はしないというものです。
セイの法則とは、「非貨幣市場の総供給と総需要が常に一致する。需要と供給が一致しないときは価格調整が行われ、仮に従来より供給が増えても価格が下がるので、ほとんどの場合需要が増え需要と供給は一致する。」というものです。

完全雇用に関して言えば、失業した人間ならばわかりますが、産業そのものが廃れた場合、他の業種に進まなければならなくなり、容易じゃないです。
つまり完全雇用は成立しません。
セイの法則も、供給があれば、需要は常に存在するということはないです。売れない物は値段を下げても売れない場合もあります。
また新古典派経済学では、世の中は経済人のみが存在する世界だと仮定されます。経済人とは、「もっぱら経済的合理性のみに基づいて個人主義的に行動する、とした(と想定した)人間像のこと」ということです。趣味嗜好に関係せず行動する経済人など、この世には存在しません。

そんな現実を無視した新古典派経済学が現在の主流派経済学であり、TPPはそれを元に試算したものとなっていました。
EUも新古典派経済学に基づいた作りとなっています。EUが失敗した理由は現実を無視したからだと言っていいでしょう。
TPPが施行されたら、TPPもEUのように失敗していたものと思われます。

自由貿易の歴史

歴史の観点から見ると、保守主義によって経済は発展することが見てとれます。
イギリスにしても、第一次産業革命が起こった土壌は保守主義による、国内産業の保護から始まっています。
第一次世界大戦前のアメリカ、ドイツの台頭も、保守主義により、国内産業を保護したことにより、イギリスを凌ぐほどの経済成長をすることができました。
そして、イギリスは自由貿易主義に走り、自国の多様な産業を維持できなくなり、高付加産業から低付加産業に移行していき、世界の工場と言われた立場をなくすこととなりました。
今イギリスの後を追っているのがアメリカであり、日本だということが言えるでしょう。
つまり、自由貿易とは、自国の産業を無防備にし、衰退へと導く片道切符だと言えるわけです。
自由貿易をすればデフレ圧力を常に受けることとなります。
労働者は底辺への競争を常に行わなくてはならなくなります。
つまりは実質賃金の低下です。

ニューディール政策により、アメリカは大恐慌を乗り越えました。
これは、トランプさんの言っていた財政出動の話の下地になっているものと考えられます。
公共投資を増やし、需要を創出するというものです。
日本も、ぜひ財政出動を実施してデフレを脱却していただきたいものです。

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